Atopic Dermatitis アトピー研究

弊社代表の山口葉子は自身の子供のアトピー性皮膚炎に苦しんでいました。多くの治療法を試みてもなかなか効果が現れず、非常に辛い思いをしていました。ある日、山口はあるクリニックで紫色の外用薬を処方されました。この薬はこれまで試したどの治療法よりも劇的な効果を示し、数日のうちに子供の症状がみるみる改善されていくのを目の当たりにし衝撃を受けたことが発端で、弊社の創薬研究は始まりました。

しかし、ピオクタニンブルーにはいくつかの問題がありました。まず名前が示す通り、強烈な青紫色をしています。また副作用や長期使用に伴うリスクが懸念されたため、元々研究者であった山口は安全かつ効果的な新薬を作る必要性を強く感じ、自ら新薬の開発を行う事を決めました。そこで、弊社の研究開発チームにピオクタニンブルーに代わる新薬の開発を指示しました。

新薬開発の道のりは非常に険しいものでした。まず、ピオクタニンブルーの作用機序を解明することが最初の課題でした。分子レベルでの反応を解析し、どのようにしてアトピー性皮膚炎に対して効果を発揮するのかを理解する必要がありました。小さな会社の新たな挑戦。資金、研究機材、人材、知識、経験とあらゆるものが不足する中、数え切れないほどの実験と試行錯誤を手探りで進め、少しずつそのメカニズムが明らかになってきました。そしてピオクタニンブルーが細胞の特定の分子経路に作用していることが分かったのです。
さらに研究を進める中で、アトピー性皮膚炎だけでなく、この分子経路は他の多くの疾患にも共通して存在することに気付きました。その中には一見するとアトピー性皮膚炎とは全く関連がないような疾患も含まれていました。この発見は弊社の研究を新たな方向へ導きました。ピオクタニンの作用機序を詳細に理解することで、アトピー性皮膚炎以外の疾患にも応用可能な治療法の開発が可能になると確信しました。
現在、弊社の研究開発チームは、その共通のメカニズムに焦点を当てた新薬の研究開発を進めています。この新薬は、アトピー性皮膚炎だけでなく、同様のメカニズムが関与するさまざまな疾患に対しても有効であることが期待されています。弊社の目標は、より多くの患者に希望をもたらし、生活の質(QOL)を向上させることです。
当初弊社の研究が始まった時の想いである、「アトピーで苦しまない世の中をつくろう」という信念は今でも変わっていません。弊社が見出したピオクタニンブルーに代わる「新薬」を一日でも早くお届けできるように、今後も頑張って研究を続けて参ります。

国内約45万6000人のアトピー性皮膚炎患者のうち、0~19歳が全体の36%、20~44歳が44%を占めており、子供の大切な成長期~思春期、そして成人以降の活動期それぞれのQOL(生活の質)を慢性的症状で損ねてしまっているのが現状です。

ナノエッグ代表の山口は自身の子供たちのアトピーケアに悩んだ経験をもとに、研究者の使命として、アトピー性皮膚炎の発症メカニズムの解明と新たな治療薬の研究開発に取り組んでいます。

アトピー性皮膚炎は、幼児期は乳児性湿疹に間違えられやすく、また青年期においてもその他の皮膚疾患ときちんと区別するのが難しいとされています。患者様はもちろん臨床医にとっても診断の助けになるような開発を行い、アトピー性皮膚炎の適切かつ最新の治療の実現を目指します。患者様の症状やご本人・ご家族のストレスを著しく軽減できる日のために、ナノエッグ研究チームは一丸となって研究を進めています。

アトピーで苦しんでいる方々を
救うために「ナノエッグの
アトピー性皮膚炎研究」

ひとりの親として、
そして研究者としてます。

私の2人の子供たちは、どちらも3歳前後でアトピー性皮膚炎を発症しました。特に長女はかなり症状がひどく、本人だけでなく家族も眠れない辛かった日々を今でも思い出します。病院で処方された外用薬や飲み薬はもちろん、さまざまな民間療法まで試しましたが、なかなか症状は改善されませんでした。全国には、私が経験したような状況で苦しんでいる親御さんたちがたくさんいらっしゃいます。
いつしか私はひとりの研究者として、皮膚からの「ドラッグ・デリバリー・システム*」の研究と共に、アトピー性皮膚炎の原因を解明して治癒させる薬を何とか生み出したいと思うようになりました。

ナノエッグはこうした私自身の体験や想いを背景に、アトピーの発症原因を創立以来ずっと研究してきました。今回こちらでお伝えする私たちの研究成果は、アトピー性皮膚炎で苦しまれている患者様たちが弊社の研究方針に共感しご協力してくださったおかげです。
同時に、そうした患者様と同様に協力してくれた私の娘と息子にも感謝しています。
これから親になる方たちや症状が再発してしまった若者たちが、私のような辛い経験をしないようになれば研究者冥利に尽きます。

株式会社ナノエッグ 代表取締役 兼 研究開発本部長 山口 葉子

* 有効な薬を必要な臓器や器官に効率よく届け、薬理効果を発揮させる技術

アトピー性皮膚炎の原因に対する
従来の認識

多くのアトピー性皮膚炎患者様に共通する特徴は、「発症部位の大半が、首・顔・肘や膝の内側であること」ならびに、「皮膚外観に乾燥と落屑、炎症所見と痒みが伴うこと」にあります。
過去長きに亘って、アトピー性皮膚炎発症の主な原因は免疫異常であると考えられており、多くの免疫学者が研究を進めてきましたが、皮膚のバリア機能の異常を伴うことにより、近年は皮膚疾患のひとつとしてとらえられるようになりました。そして、その過程で原因として見出されたのが「フィラグリン遺伝子変異」であり、その知見がしばらく研究者の間で浸透していました。

しかし、フィラグリン低下だけではアトピー性皮膚炎は発症せず、発症者におけるフィラグリン遺伝子変異の割合もわずか30%程度であることが判明したため、現在は、「フィラグリン遺伝子変異」がアトピー性皮膚炎の主因であるとは言い切れなくなりました。つまり、新たにその原因を追究すべき時代に入ったということです。

世界に先駆けたナノエッグの新発見

私たちナノエッグは、アトピー性皮膚炎患者様の多くが1)皮膚のバリア機能低下を伴い、2)汗をあまりかけず、とはいえ、発症部位は汗を比較的かく部位 3)皮膚の毛穴周囲が隆起して常に鳥肌様を示している症状から、新たな原因物質を見出しました。

これらがすべて説明できる共通物質が、アセチルコリン(Ach)という神経伝達物質で、アトピー性皮膚炎患者様の皮膚内のAch濃度が健常者に比べてかなり高いことが判っています。Achは、生化学の教科書で必ず登場する極めて良く知られた低分子化合物で、神経機能に関与する物質ですが、アトピー性皮膚炎に関与し原因を解明することは世界中で誰もできませんでした。

「なぜ皮膚内Ach濃度が高いのか?」
「なぜ汗が出にくいのか?」
「なぜ常に鳥肌様なのか?」

これらの疑問を説明するために、皮膚の深い部分の秘密に注目して研究を続けています。

アトピー性皮膚炎患者の多くが、寒くもないのに鳥肌様を呈しているのは、分解されない過剰なアセチルコリンが、毛穴につながる立毛筋が常に収縮させているためです。立毛筋が例外的にコリン作動性であるため、このようは皮膚状態になっています。

さらに、皮膚の外観症状を担う表皮層においても、アトピー患者様皮膚に特徴的に存在するSPC(スフィンゴシルホスホリジルコリン)と過剰なコリン(Ach分解物)が、AchE活性を阻害してしまう発見をしたことから、「なぜ表皮層のAch濃度も高くなるのか」の解明に成功しました。

K,Kitazawa et.al. Biol. Pharm. Bull. 44, 1717–1723 (2021)より

高濃度Achによって皮膚表皮は正常な代謝を行えなくなり、バリア機能を担う物質の産生が十分でないためバリアの破綻を来します。その結果、角質細胞がはがれる落屑状態となり乾燥感を感じるようになります。バリアが弱い状態では細菌が侵入しやすくなるため、炎症が引き起こされます。これがアトピー性皮膚炎に特徴的な皮膚所見に繋がると考えています。
すなわち「皮膚の深部から表層までAchが高濃度で存在し続けていることが、アトピー性皮膚炎の発症原因である」ことを突き止めました。

アトピー性皮膚炎の
完全寛解*に向けて

私たちはまず、アトピー性皮膚炎を皮膚疾患ととらえています。汗腺分泌部及び周囲の異常によって皮膚のバリア機能破綻の結果、炎症症状が誘発され痒みが伴うため、まるで免疫異常が主因であるように誤認されやすいのだと考えています。
現在は、私たちが解明した主因からアトピー性皮膚炎に対する有効な治療法や対症療法に関する研究を推進しています。
「世界中のアトピー性皮膚炎の患者様の治癒に貢献し、QOLを高めるサポートをしたい」ナノエッグはその強い信念を持って、これからもアトピー性皮膚炎に関する研究を続けて参ります。

*根本的に治ること

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