今回のテーマは、「肌は、ウェルエイジングをめざそう」です。
前回、肌の保湿とは何か?をご紹介しましたが、今回は、皆さんがとても気にしているエイジングに関してお話をしたいと思います。
エイジングの言葉、そう、まさに加齢ですね。なんだかこわーい気がしますが、残念ながらすべての人が避けて通ることができません。体の中のエイジングは、近年皆さんの意識も高まり、健康診断を毎年欠かさず受ける方も多くなっていると思います。ただ体のエイジングは、臓器や細胞の状態や働きの変化なので、自覚症状のない場合は特殊な機器類を使わないとエイジングしていることに気づきにくいと思います。
一方、毎日鏡で見る顔の変化は、目で見ただけで気づくので、多くの女性たちは「何とかしたい」と日々悩んでいるのではないでしょうか?「あぁ、こんなところにシミ?」、「笑ってもいないのに、目じりにしわが・・・」、「肌がくすんでいるなあ、顔色が悪いの?」とか、「メイクノリが悪いなあ」、そして「昔より肌にハリがなくなった?」などなど。書き出したらキリがないですね。
そんな私も、肌の研究に携わって15年以上が経ちました。皆さんと同じように、毎日加齢するわけですが、昔の自分よりも今の自分は、肌の変化や顔の変化にかなり敏感になっています。職業病かもしれませんが、日々変化を確認している感じです。肌、すなわち皮膚は、胃や腸や心臓などと同じ臓器ですが、私たち研究者は、内臓ではなく外臓だと思っています(笑)。そう、私たちの目で見て、触って確認できる臓器なんです。だからその変化を日々感じることができますので、体全体のエイジングサインを感じることもできるわけです。
エイジングサイン??
例えば、「顔色が悪い」という表現は、本当に肌の色がおかしい場合を除けば、皮膚以外の臓器に問題がある場合に起こる症状です。肌は様々なエイジングのサインを表現しているとも言えますね。
特に皆さんが感じている肌のエイジングサインは、シミ、しわ、たるみではないでしょうか?
「色白は百難隠す」と言われるように、日本人は肌が白いことを強く望む傾向にあります。一方欧米人はしわを気にすることが多く、エイジングの論文もしわの改善に関する内容が多いです。国によって気にするエイジングサインは異なりますが、見かけの年齢に大きく影響する因子です。
それでは、次のイラストで最も年齢が高く見えるのはどのイラストでしょうか?
シミやしわは、確かに老けて見えますが、一番年齢を重ねて見えるのは右端ではないでしょうか。右端はいわゆるたるみがある状態です。たるみは実は国を問わず多くの人が悩んでいるポイントですが、原因は、シミやしわと違って、肌の深いところに原因があります。
シミやしわは、皮膚の表皮層や真皮層と言われる厚さ1~4mm程度の中に原因があります。一方、たるみはもっと深い筋肉に至るまでの組織の加齢が原因です。皮膚の組織は、筋肉表面にある皮下脂肪と膜状組織(SMAS、スマスと呼ばれています)と、深部リガメントで支えています。皮膚の組織をテーブルの天板とするなら、リガメントはテーブルの脚に相当します。この脚は意外にも頑丈で、加齢によって多少固くなるものの大きく動くことはありません。しかし、天板は加齢により薄くなりよれよれして伸び切ってしまいます。そのような状態でテーブルを横にして立てかければ、天板だけ下に垂れ下がってしまう。これがたるみの原理です。
見た目の年齢を決めてしまう要因はたるみが大きいことがわかりましたね。そして皮膚の深い場所の筋肉が皮膚を支えていますが、加齢によって薄くよれよれになってしまった皮膚も、筋肉上の皮下脂肪やSMASがしっかりと皮膚を支えられれば、たるみの程度は軽減されるはずです。やせすぎた人ほど、たるみが目立ってしまったり、ふっくらした人ほど、ほうれい線が目立たなかったりしますよね。
また、笑顔が素敵な人は、表情筋の量(大・小頬骨筋)が多いと言われています。筋肉の量を増やすことで、筋肉表面の状態も改善され、皮膚を支えやすくなるためたるみも軽減されることが期待できます。
エイジングは誰にも起こること。肌も確実にエイジングしますが、どんな歳の重ね方をするのかによって、その人の見た目年齢は決まるように思います。アンチエイジングは今の科学ではできませんが、ウェルエイジングは、科学や医学の進歩と、生き生きとした笑顔のある生活の中で可能になると思います。リモートワークをするようになり、画面で会議に参加するみんなの顔を見ながら特に感じるのは、その表情です。無意識とはいえ、黙って議論を聞いている際の表情が、ムスッとしている、口角が下がっている、ニコッとしているでは、大きく年齢が違うように見えます。
私自身、ウェルエイジングをするために、毎日を笑顔で過ごす努力をして、何十年先に今と大きく変わらない見た目で・・・と頑張りたいと思います。