今回のテーマは、「肌のバリアって何?どうケアするの?」です。
最近は化粧品の広告などで、「肌のバリア」という言葉をよく聞くようになりました。そもそもなぜ肌の話題の時に、「バリア」という言葉がクローズアップされるようになったのでしょうか?
ここからはちょっと肌から離れ、言葉の説明をしていきたいと思います。ヒトは実は肌だけでなく様々な組織で「バリア」を担う機能を持っています。その臓器には共通項があって、空気と接する臓器(器官)にバリアが備わっていることが多いです。次の図を元に説明すると、私たちが臓器と呼ぶものは器官とも言われています。器官(臓器)は組織の集まりで、さらに組織はもっと小さな細胞の集まりになります。つまり細胞という言葉を「国民」と例えると、「地方自治体」が組織、器官は「日本」ということになり、最終的にはヒトは「世界」になりますね。
ヒトの体はこのような単純なたとえですべて説明できないものの、国と言う器官(臓器)の周りが海に囲まれているのか、土地と土地でつながっているのか、すなわち各器官(臓器)が空気に接しているのか、体液や血液等の液体で接しているのかで、器官(臓器)のバリアに違いが見られます。
皮膚は空気に覆われている器官(臓器)の代表格で、組織構造が特徴的です。つまりは守らなければならない相手が空気なので、皮膚の内側から水が簡単に蒸発してカピカピにならないように、さらに空気中に漂う様々な細菌やウイルスが侵入して感染しないよう、はたまた長時間水の中に入ったとしてもどんどん水が入り膨らまないように、強固な「防御」をしなくてはなりません。そのために特徴的な「バリア」包囲網を作っています。
皮膚は最大面積の臓器ですから、包囲網をち密に設計しなければなりません。一日中裸でいても夜に干からびている人はいませんし、一流水泳選手は、毎日プールの中にいて練習に明け暮れても、練習後パンパンに膨れ上がってしまう選手もいません。では、どうやって防御という「バリア」を作っているのでしょうか?
皮膚のバリア機能は、一つではなくいくつもの仕組みで担っています。まずは、細胞がいくつも積み重なることで簡単には侵入や漏出をしないようにしています。細胞が集まることで強みを発揮しているんですね。(図参照)
そして、角層の間にはそれぞれ膜が存在し、たとえ細菌などの不審者が侵入してしまった場合でも簡単には地下に侵入できないようになっています。もちろんSECOMや警察のような役割を担う細胞(ランゲルハンス細胞といい、免疫細胞です)もいて、不審者を見つけると警報を鳴らし捕まえるシステムがしっかり出来上がっているんです。皮膚は面積が広いので、特に機能が複雑で卓越していると思います。この辺りは意外にクローズアップされませんが、非常に大切なシステムです。
とはいえ、防御の主役は細胞間脂質という油です。これは皮膚の一番外側の角質層の中にあるので、外側からや中側からの、最初で最後の砦です。不審者の侵入を防ぎ、大切な水の蒸発も防いでいます。では、細胞間脂質って?最近ではセラミドと言う言葉で細胞間脂質を説明している場合が多いように思います。そもそも細胞間・脂質 とは、角質細胞と角質細胞の間にある油脂のことを表現しています。皮膚は前述したように細胞が積み重なって集まった組織ですが、どんなに細胞同士がギューギューに集まってもすきまが出来てしまいます。そのすきまは防御としては許されない甘さなので、何とかきっちり埋める必要があるわけです。
では、細胞間脂質の脂質はどんな油なのでしょうか?サラダ油のようにサラサラしていたらすぐに流れ出てしまいます。ココナッツオイルはどうでしょうか?常温でざらってしてトロッとしていますが、これでもまだまだ不十分です。実際には、固体に近い固さで、常温では流れ出ず、皮膚の温度の35℃でもまだまだ固い状態を維持できる油脂になっています。このような固さを維持し、でも角層のために水分を保持し肌の滑らかさを出すには、特殊な構造である必要があります。ただのカチンコチンでは肌の滑らかさは表現できません。
皮膚は本当に賢いです。バリアを担い、そして肌の滑らかさも維持するための最適な構造を作り出しています。これが「ラメラ」という構造です。35℃~40℃程度の温度では容易に溶けず、かつ防御と言う役割を担うため、水を極薄で挟み、油脂でサンドする構造になっています。薄く挟まれた水は高温でも蒸発しなくなりますし、油で何層にもサンドした構造はスキがありません。油の部分は、脂肪酸、コレステロールとセラミドになります。皆さんがよくご存じなのはセラミドですね。実はセラミドだけでは皮膚に最適なラメラ構造は作れず、またそれぞれの成分を混ぜたらすぐできるわけでもありません。
コレステロールや脂肪酸は何となく健康上良くない油のように思われていますが、生命を維持するためにはとても重要な脂質で、過剰すぎると病気につながってしまうので悪者の汚名を着せられている気がします。この脂質たちが実はとても良い仕事をしていて、最適なラメラ防波堤を作るために必ず必要な成分で、セラミドの働きを助けバリアとしての機能を発揮します。
肌のバリアがもし何らかの理由で壊れてしまったら、どうすればいいでしょうか。その場合、皆さんはセラミドケアを考えれると思います。もちろんセラミドは細胞間脂質の約50%を占めるので、それも一つの方法ですが、セラミドは塗っただけではバリアの機能を持つ細胞間脂質にはなりにくいです。その理由は、脂肪酸やコレステロールと一緒になって脂質を担っているので、壊れたラメラの代わりにはならないからです。また壊れたときにセラミドだけが足りないという状況も少ないです(特別な疾患は別です)。
一番良い方法は、細胞間脂質そのものを塗ることです。セラミドや脂肪酸、コレステロールによって作られたラメラ構造を補充するケアが最適だと思います。
肌は、外気にさらされいつも様々なストレスを受けていますし、内面の問題でも大きなストレスを受けます。肌の最も大切な機能であるバリアケアを日常的に続けると、様々な外的要因や年齢を重ねても耐えることのできる美しい肌になってくれると思います。